なんで最初から選ばれているものを、そのまま選んじゃうの?
その正体は、
デフォルト効果
でふぉると こうか/Default effect
最初からそうなっているものは、そのまま残る。選んだのではなく、動かさなかっただけでも。
会員登録の最後にある、最初からチェックの入った「お知らせを受け取る」。入れた覚えは無いのに、そのまま登録を押している。2003年、ネットで161人に「臓器提供者になりますか」を3通りの画面で聞いた研究が、最初の印の位置だけで答えがほぼ2倍変わることを確かめました。
- 確かめた人
- エリック・ジョンソンとダニエル・ゴールドスタイン(2003年、サイエンス誌の論文で)
- 実験の中身
- ネットで161人に「引っ越した先の州で、臓器提供者になりますか」と聞く。画面は3通りで、「提供しない」に最初から印がある形、「提供する」に印がある形、印の無い形
- 言葉の意味
- 英語の default は「何もしなかったときに、そうなる設定」。論文は、たいていの政策には「決めなかった人に課される条件」がある、と書いている
- よく出る場所
- 入ったままの「お知らせを受け取る」・会社の年金の自動加入・給料日に自動で貯金
- 揺れている所
- 国ごとの同意の割合は書式で大きく動くが、実際の提供がそのぶん増えるかは別。2019年に35か国を比べた研究では、差が出なかった
01最初の印の位置だけで、答えが2倍になった
ジョンソンとゴールドスタインは、ネットで161人に、こんな場面を想像してもらいました。引っ越した先の州で、登録の手続きをしている。そこに「臓器提供者になりますか」の欄がある。画面は3通りあります。「提供しない」に最初から印が入っていて、提供したい人だけ印を動かす形。「提供する」に最初から印が入っていて、したくない人だけ動かす形。そして、どちらにも印が無く、自分で選ぶ形。動かすのはクリック1回で、手間はほとんどありません。
1161人に、ネットで「引っ越した先の州で、臓器提供者になるかを登録する」場面を想像してもらう
2画面は3通り。「提供しない」に最初から印がある形、「提供する」に最初から印がある形、印の無い形。動かすのはクリック1回
3提供すると答えた人は、「提供しない」に印があった組で42%、「提供する」に印があった組で82%、印の無い組で79%
4本当の国でも同じ形が出ていた。「提供しない」が初期値のヨーロッパ4か国では4.25〜27.5%、「提供する」が初期値の7か国では85.9〜99.98%の人が提供に同意している
提供すると答えた人は、「提供しない」に印があった組で42%、「提供する」に印があった組で82%。印の位置が違うだけで、ほぼ2倍です。おもしろいのは3つ目の組で、印が無く自分で選んだ人は79%が提供すると答えました。「提供する」が初期値の組と、ほとんど同じ。つまり、聞かれれば多くの人は提供すると答えるのに、「提供しない」が初期値だと、その半分ほどしか印を動かさなかったわけです。
2人は、本当の国でも同じことが起きていると示しました。ヨーロッパでは、臓器提供の同意の取り方が国で分かれます。提供したい人が登録する国(初期値は「提供しない」)と、提供したくない人が登録する国(初期値は「提供する」)。前者のデンマークは4.25%、ドイツは12%、イギリスは17.17%、オランダは27.5%。後者のオーストリアは99.98%、フランスは99.91%、スウェーデンでも85.9%。2つの群は重なりが無く、60ポイント近く離れています。オランダは1998年に登録制度を作り、人口1,580万の国で1,200万通を超える手紙を送って登録を呼びかけましたが、同意の割合は変わらなかった、と論文は書いています。
02なぜ、動かさないのか
動かすのはクリック1回。それでも動かないのはなぜか。論文は、初期値が効く道を3つ挙げています。
「最初からこうなっているなら、これが普通」と読む
初期値は、決めた側からのおすすめに見えます。「提供する」に印が入っていれば、この州では提供するのが普通なのだろう、と読む。「お知らせを受け取る」に印が入っていれば、みんな受け取っているのだろう、と読む。中身を調べる前に、置かれ方から答えを推し量っているわけです。
決めるのは手間で、そのままは手間がゼロ
選ぶには考えなければならず、臓器提供のように、考えること自体が重い話もあります。論文は、決めること自体を避けたい人は多いと書いています。そのままにしておけば、決めなくて済む。国の登録なら、紙を書いて、電話をして、郵送する。手間が大きいほど、初期値はそのまま残ります。
変えると「失うもの」が目に入る
初期値は、いまの状態そのものです。そこから動くと、何かを手放して何かを得る形になる。人は同じ大きさでも、得るものより失うもののほうを大きく感じる(損失回避)。だから動かさないほうが楽に感じられます。実験ではクリック1回で動かせたので、手間の説明はほぼ消えています。それでも差が出たのは、あとの2つが効いていたからです。
この効き目は、2023年に1,920人で追試されています。「提供しない」に印があった組は62.5%、「提供する」に印があった組は73.5%、印の無い組は69.7%。向きは元の研究と同じで、差は11ポイントと、元の40ポイントより小さくなりました。効くことは効くが、どれくらい効くかは場面で変わる、というのが今の見立てです。
03身のまわりのデフォルト効果
実験の外では、「最初から入っている印」の役を、登録の画面や会社の書類がやっています。
場面ごとに見ると、こんなところに出てきます。
SNS・ネットでは
登録のときの「お知らせを受け取る」、アプリを入れたときの「通知を許可」、動画の次が勝手に始まる設定。どれも、置いた側に都合のいい向きで置かれています。印が入っていたら、1回だけ「誰が入れた?」と聞く。答えが自分でないなら、外していい。スマホの1画面目の並びも初期値の1つで、そこにある物からまず開きます。開きすぎるアプリを2画面目に移すだけで、自分の初期値が変わります。
仕事では
会議の「とりあえず今回も同じやり方で」、資料の「前回の型のまま」、何もしないと自動で続く契約。何もしなかったときにどうなるか、が先に決まっている場面はたくさんあります。提案するときは、「何もしないとこうなる」を先に言葉にすると、そのままでいいかを、みんなが一度は考えることになります。年金の会社では、紙の向きが変わっただけで、加入する人が37%から86%になりました。
お金・買い物では
無料のお試しが終わると、そのまま有料に。選んでいない保証が、見積もりに最初から入っている。お金の向きを決めている初期値は、たいてい相手の得になる向きです。逆に、自分の得になる初期値は、自分で置ける。給料日の自動の貯金、使いすぎるカードの上限。1回だけ手を動かせば、あとは「動かないこと」が味方になります。
04振り回されないためのコツ
入っている印は、「誰が入れたか」を見る
最初から入っている印には、入れた人がいます。自分でないなら、その人の都合で入っている。会員登録の「お知らせを受け取る」、見積もりの保証、アプリの通知。中身が良いか悪いかを考える前に、誰が、何のために置いた初期値かを1回だけ聞く。それだけで、「普通はこうなのだろう」という読みが外れます。
自分の初期値は、1回だけ手を動かして置く
毎回がんばって選ぶのではなく、何もしなかったときに良いほうへ行く形を、1回作っておく。給料日の自動の貯金、通知を切ったスマホ、1画面目に置くアプリ。年金の会社で加入が37%から86%になったのは、誰かが毎月がんばったからではなく、紙の向きが変わったからです。意志より、置き方。
「そのまま」も、選んだことにする
動かさなかっただけのことを、あとから「自分で選んだ」と思いがちです。実験で「提供しない」のまま残した58%の人も、白紙で聞かれていれば多くが提供すると答えたはずでした(印の無い組は79%)。何かをそのままにしているときは、「もし今、白紙から聞かれたらどう答えるか」を一度だけ考える。答えが初期値と違うなら、そこが動かしどころです。
とはいえ、初期値はなくせませんし、なくす必要もありません。どんな仕組みにも「何もしなかったときの結果」があり、全部を毎回決めていたら身がもたない。知っておくことは1つ。最初からそうなっていたものは、自分が選んだものではない。それを思い出せたら、入ったままの印も、そのままの設定も、ただの出発点に戻ります。
05もっと知りたくなったら
なかまの効果
次に気になりそうなこと
国の差は、本当に書式だけで決まるの?
「印が無い」形にしたら、どうなる?
本当に、何度やっても出る効果?
自動加入にしたら、みんなの貯金は増えた?
同じ棚の本
こころの棚で、この本の前と次に並んでいる2冊。