なんで最初は変だった曲が、3回目にはいい曲に聞こえるの?
その正体は、
単純接触効果
たんじゅん せっしょく こうか/Mere-exposure effect
何度も見た・聞いたというだけで、それを好きになっていく。
初めて聴いたときは引っかかった曲を、気づけば口ずさんでいる。曲は1音も変わっていないのに。1968年、アメリカの大学で、意味の無い言葉をただ何回も見せるだけの実験が、この仕組みを確かめました。
- 確かめた人
- ロバート・ザイアンス(1968年、ミシガン大学で)
- 実験の中身
- 意味の無い7文字の言葉を 1回〜25回 見せてから、「良い意味か悪い意味か」を当ててもらう
- 名前の由来
- ザイアンス自身の言い方。「ただ目に入るようにするだけ(mere exposure)」で足りる、という意味
- よく出る場所
- くり返し流れる曲・毎日すれ違う人・鏡の中の自分の顔
- 見分け方
- 「どこが好き?」に「なんとなく、こっちが自然」しか出てこない
01意味の無い言葉を、1回から25回まで見せる
ザイアンスは参加者に「外国語の発音の練習です」と言って、カードに書いた7文字の言葉を1枚2秒ずつ見せ、まねして発音してもらいました。「iktitaf」「afworbu」のような、実際には意味の無い言葉です。言葉によって出る回数がちがい、1回だけのものもあれば、25回出るものもある。1回も出ない言葉もありました。
1「発音の練習です」と言って、意味の無い7文字の言葉をカードで1枚2秒ずつ見せ、まねして言ってもらう
2言葉によって出る回数がちがう。1回だけのものもあれば、25回出るものもある。1回も出ない言葉もある
3全部見せたあとで「実はトルコ語の形容詞です。良い意味か悪い意味か、当ててください」
4意味は誰も知らない。なのに、たくさん見た言葉ほど「良い意味」と答えられた
意味を知っている人はいません。意味が無いのだから。それでも、25回見た言葉は、1回しか見ていない言葉より「良い意味だろう」と答えられました。ザイアンスは同じことを、読めない漢字(ただ眺めるだけ)と、知らない男性の顔写真(「この人を好きになれそうか」)でも確かめ、どれも見た回数が多いほど評価が上がった。相手の中身は何も変わっていないのに、見た回数だけで「良い」が増えていく。これが単純接触効果です。
「見た」と気づかなくても起きます。1980年、ザイアンスが加わった別の実験では、図形を1000分の1秒だけ見せました。見ている人には、光がちらっと点滅したようにしか見えません。あとで「どちらを見ましたか」と聞くと、正解は48%。当てずっぽうと同じで、見分けられない。ところが「どちらが好きですか」と聞くと、見せたほうが選ばれる割合は60%に上がりました。何を見たか覚えていなくても、見た回数は好みに効いていたのです。
02なぜ、見ただけで好きになるのか
中身を知らないのに評価が上がるのは、変な話に見えます。理由はいくつか考えられていて、ザイアンスの論文にも手がかりがあります。
知らないものは、まず警戒する
ザイアンスは論文の中で、動物行動学者ローレンツの観察を引いています。若いワタリガラスは、見たことの無い物からまず逃げ、何も起きないと少しずつ近づいていく。人も同じで、初めてのものには小さな身構えがある。何度見ても何も起きないと、身構えが解けていく。その解けたぶんが、「好き」に見えます。
見慣れたものは、頭が楽
2回目に見たものは、1回目よりすんなり入ってきます。ザイアンスの実験でも、発音しやすい言葉ほど「良い意味」と取られていました。何度も見た言葉は、読むのも発音するのも楽になる。その「楽さ」を、人は中身の良さと取りちがえている、という考え方です。
「好き」は「覚えている」より先に動く
1000分の1秒の実験が示したのはここです。どれを見たか思い出せなくても、好みのほうは先に動いていた。だから本人は、なぜ好きなのかを説明できません。鏡の実験(下で出てきます)でも、本人たちは「こっちのほうが自然」「首の角度がいい」と、無いはずの違いを理由に挙げました。
ただし、見れば見るほど、ではありません。81本の研究をまとめ直した2017年の分析では、好みは回数とともに上がったあと、ある所から下がっていく山の形をしていました。見飽きる、ということです。この山の形がはっきり出たのは絵や図形で、音ではまだはっきり出ていません。曲が「3回目にいい曲」になったあと、何十回目かに飽きるかどうかは、実験ではまだ確かめきれていない、というのが正直なところです。
03身のまわりの単純接触効果
実験の外では、「25回見せる」役を、毎日の暮らしが勝手にやっています。
場面ごとに見ると、こんなところに出てきます。
恋愛では
毎日見かける人が、なんとなく気になってくる。その「気になる」の何割かは、回数でできています。それでも好きなら本物。確かめ方は簡単で、会わない週が1つ挟まっても気になるか。回数が止まっても残るぶんが、中身への「好き」です。
友達では
新しいクラスや職場で、最初の1週間に友達ができないのはふつうです。回数がまだ無いだけ。講義の実験で効いたのは「何回いたか」でした。1回長く話すより、短くても顔を合わせる回数を増やすほうが、この効果には乗れます。
SNS・ネットでは
同じ広告、同じ顔、同じ投稿が何度も流れてくると、だんだん「悪くない」に見えてきます。押す前に、中身を見て選んだのか、回数で選んだのかを一度分ける。回数で選んでいたと気づいても、やめなくていい。分かって選べばいいだけです。
お金・買い物では
棚の前で「見たことあるやつ」に手が伸びる。CMで見た回数が、安心に化けています。隣の知らない商品の裏の表示を一度読んでみると、中身で選んでいたのか、回数で選んでいたのかが分かります。
04振り回されないためのコツ
新しいものは、3回目まで判断を待つ
1回目の「変」は、中身の評価ではなく、初めての身構えかもしれません。曲も、人も、店も、3回目まで保留にしてから決める。それだけで、「合わなかった」と早く見切ってしまう回数が減ります。
「好き」と「見慣れた」を分けて言ってみる
気になるものに出会ったら、「どこが好き?」と自分に聞いてみる。「なんとなく」「自然な感じ」しか出てこないなら、鏡の実験の本人たちと同じで、回数が答えているのかもしれません。それが分かっていれば、選んでも後悔しにくい。
回数を増やされている場所に気づく
同じ広告、同じ曲、同じ顔が何度も流れてくる場所では、こちらの「好き」が少しずつ作られています。悪いことではないけれど、決めるときは、見た回数の少ないほうも一度並べる。並べてみて、それでも選ぶなら、それは中身で選んでいます。
とはいえ、見慣れたものを好きになるのは、生き物としてまともな仕組みです。知らないものを警戒して、何も起きなければ気を許す。そのおかげで、新しい曲も、新しい街も、だんだん居心地が良くなっていく。「好き」の何割かは「見慣れた」でできている。それを知っていれば、新しいものに3回目のチャンスをあげられるし、自分の「なんとなく好き」を少しだけ疑うこともできます。
05もっと知りたくなったら
なかまの効果
次に気になりそうなこと
見た回数が多いほど、ずっと好きになり続ける?
嫌いなものも、見ていれば好きになる?
「見た」と気づかなくても効くって、本当?
どうして「単純接触」という名前?
同じ棚の本
こころの棚で、この本の前と次に並んでいる2冊。