なんで選択肢が多いと、かえって選べないの?

もとになったのは、

ジャムの実験

じゃむ の じっけん/The jam study / Choice overload

品数が多い台は人を集めるが、買われたのは少ない台のほう。ただしこれは、いつでも起きることではない。

24種類のジャムを並べた試食台と、6種類だけの台。人が集まったのは24種類のほうでした。ところが実際に買った人は、6種類の台のほうがずっと多かった。2000年に発表されたこの実験は「選択肢は多すぎないほうがいい」という話として世界中に広まりました。ただ、そのあと何十もの追試をまとめると、いつでも起きることではないと分かってきています。

確かめた人
シーナ・アイエンガー(コロンビア大学)とマーク・レッパー(スタンフォード大学)。2000年
実験の中身
カリフォルニアの高級スーパーに試食台を出し、1時間ごとに6種類と24種類を入れ替える。立ち止まった人と、そのあと買った人を数えた
よく出る場所
ラーメン屋の券売機・長いメニュー・通販の検索結果
揺れている所
2010年に50の実験・5,036人の結果をまとめると、平均の効果はほぼ0だった。2015年のまとめでは、好みがはっきりしないときなど、決まった条件で出やすいと分かった

01人が集まる台と、売れる台は別だった

実験の場所は、カリフォルニア州の高級スーパー。ジャムだけで300種類以上を置いている店です。アイエンガーとレッパーは、2週続けて土曜日に5時間ずつ試食台を出し、1時間ごとに中身を入れ替えました。ある時間は24種類、次の時間は6種類。選んだのは同じ会社のジャムで、いちごやラズベリーのような定番は、そればかり選ばれないように外してあります。

スーパーの試食台の実験
  1. 124種類の台の前を通った242人のうち、60%が立ち止まった。品数が多いのは、見るだけで楽しい

  2. 26種類の台は、260人のうち40%。試食した数はどちらの台でも平均1.5個ほどで、ほとんど同じだった

  3. 3立ち寄った人には1ドル引きの券。買うには、全部の味が並ぶジャムの棚へ行く。買ったのは24種類の台から145人中4人(3%)、6種類の台から104人中31人(30%)

  4. 4同じ論文の別の実験では、学生にチョコを6種類か30種類から選んでもらった。謝礼に「5ドルかチョコの箱か」を選ばせると、箱を選んだのは6種類の人で48%、30種類の人で12%

人を集めたのは多いほう、買われたのは少ないほう。チョコの実験では、30種類から選んだ人のほうが「選ぶのは楽しかった」と答えた一方で、「難しかった」「もどかしかった」とも答え、食べたあとの満足も低めでした。著者たちはこれを、選択肢が多すぎると、かえってやる気がしぼむと書きました。題は「選択がやる気をそぐとき」です。

ただし、この話には続きがあります。2010年、ほかの研究者たちが、同じ問いを調べた50の実験・5,036人の結果をまとめ直しました。すると、平均すると効果はほぼ0。はっきり出た研究もあれば、まったく出ない研究も、多いほうが選びやすく満足も高かった研究もありました。著者たち自身も、6種類の台には最初から買う気のある人が寄っただけかもしれない、と弱点を書いています。「選択肢は少ないほどいい」は、言いすぎでした。

では、どんなときに出るのか。2015年に99の結果・7,202人をまとめた研究は、出やすくなる条件を4つ挙げています。並びがややこしくて比べにくいとき、選ぶ作業そのものが難しいとき、自分の好みがはっきりしないとき、そして手間をかけずに済ませたいとき。この4つを考えに入れると、品数の効き目ははっきり見えてきました。多いか少ないかより、選ぶ側の事情で決まる、ということです。

02なぜ、多いと選べなくなるのか

実験とその後のまとめから、理由はだいたい3つに分けられます。

  1. 比べる手間が、品数より速く増える

    6種類なら全部を見比べられても、24種類ではそうはいきません。チョコの実験でも、30種類から選んだ人は、6種類の人の3倍近い時間(平均24秒と9秒)をかけ、「難しかった」と答えました。比べ切れないと、「今日はやめておこう」が一番楽な答えになります。

  2. 選ばなかったほうが、気になって残る

    24種類から1つ選ぶと、残りの23種類が「あっちのほうが良かったかも」の候補になります。チョコの実験で、30種類から選んだ人の満足が低めだったのは、後悔の気持ちを含めて聞いたときでした。選ぶのが楽しくても、選んだあとが落ち着かない。

  3. 好みが決まっていないと、物差しが無い

    実験のジャムは、わざと定番を外した見慣れない味でした。どれが好きか分からないまま24種類を前にすると、何を基準に比べればいいかが無い。逆に、好みがはっきりしている人には、品数が多いほうが自分に合う1つが見つかりやすい。困るのは品数そのものより、物差しが無いことです。

だから「選べない」と感じたとき、品数を減らせない場面でも、できることはあります。比べる軸を先に1つ決めれば、24種類でも、見るのはその軸の上の数個だけになります。

03身のまわりのジャムの台

「たくさん並んでいて、決められない」は、店の外にも見つかります。

ラーメン屋の券売機ボタンが40個、後ろには人が並んでいる。とりあえず目に入ったボタンを押した経験は、たいていの人にあるはずです。比べる時間が無く、どれが好みかも分からない。実験で効果が出やすいとされた条件が、そろっています。
定食屋の「本日のおすすめ」メニューの長い店ほど、「本日のおすすめ」が1つ書いてあるだけで、ずいぶん決めやすくなります。選択肢は1つも減っていない。選ばずに済む道が1本、足されただけです。
通販の絞り込み検索結果が2,000件を超えると、上から眺めるだけで疲れてしまいます。値段・大きさ・評価のどれか1つで絞ると、同じ品ぞろえでも、比べるのは数件で済む。品数は店が決めますが、物差しはこちらで決められます。

場面ごとに見ると、こんなところにも出てきます。

  • お金・買い物では

    家電売り場で十数台を見比べて、結局その日は買わずに帰る。迷うのは優柔不断だからではなく、比べる軸が決まっていないから。「予算」と「いちばん大事な1点」だけ決めて行くと、売り場の広さに振り回されにくくなります。

  • SNS・ネットでは

    動画やレシピを探して、検索結果やおすすめを延々と眺め、何も見ないまま時間が過ぎる。選択肢が無限に近いところでは、「今日はこの3つから」と自分で枠を作るのが効きます。選ぶ前に疲れていないか、ときどき気にしておく。

  • 学校では

    自由研究やレポートの題を「何でもいい」と言われると、かえって手が止まる。同じ論文の別の実験では、レポートの題が6つから選べた学生は74%が書き、30から選べた学生は60%でした。迷ったら、まず候補を3つに減らしてから選ぶ。

04多すぎる選択肢と、うまく付き合うコツ

  1. 先に物差しを1本決める

    眺める前に「これで決める」を1つ。好みがはっきりしている人は品数が多くても困りにくい、というのが追試のまとめでした。物差しは、その場で好みを作るかわりになります。

  2. 候補をいったん3つに絞る

    全部を一度に比べようとしない。まず3つに減らしてから、その中で選ぶ。比べる組が一気に少なくなり、選ばなかったものも気になりにくくなります。

  3. 「だいたい良い」で止めていい

    24種類の中の一番を探すと、終わりがありません。物差しを満たした最初の1つで決めると決めておけば、あとから「もっと良いのがあったかも」と考える時間も短くなります。

とはいえ、選択肢が多いことがいつも悪いわけではありません。好みがはっきりしている人、時間のある人には、品数の多さは助けになります。困るのは選択肢の数ではなく、物差しを持たずに立っているとき。そう思えると、長いメニューの前でも少し落ち着いていられます。

05もっと知りたくなったら

なかまの効果

次に気になりそうなこと

本当に「10倍」売れたの?
割合で見ると3%と30%で、たしかに10倍です。ただ人数は、24種類の台から145人中4人、6種類の台から104人中31人。母数は「台の前で立ち止まった人」で、通りかかった人全体ではありません。著者たち自身も、6種類の台の客は「この6つは特別」と思ったのかもしれない、寄ってくる客がそもそも違ったのかもしれないと書き、それを確かめるために、レポートの題とチョコの実験を同じ論文で重ねています。
追試では、どうなった?
2010年のまとめでは、50の実験・63の条件・5,036人の結果を合わせると、平均の効果はほぼ0でした。ただし研究ごとのばらつきが大きく、強く出た研究もあれば、多いほうが選びやすく満足も高かった研究もありました。「たまたまだった」でも「いつでも起きる」でもなく、起きる場面と起きない場面がある、というのが今の見方に近いです。
どんなときに起きやすいの?
2015年に99の結果・7,202人をまとめた研究は、4つを挙げています。並びがややこしく比べにくい、選ぶ作業そのものが難しい、自分の好みがはっきりしない、手間をかけずに済ませたい。4つとも、店ではなく選ぶ側の状況です。同じ24種類の台でも、ジャムに詳しい人と初めての人とでは、別の台に見えているのかもしれません。
多いほうが楽しいのに、なぜ選ばないの?
チョコの実験では、30種類から選んだ人のほうが「選ぶのは楽しかった」と答えていました(7段階で6.02と4.72)。それなのに「難しかった」「もどかしかった」も高く、選ぶ時間は3倍近く、食べたあとの満足は低め。眺める楽しさと、決める大変さは別もので、多い品ぞろえは前のほうだけを大きくするようです。

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