なんで夏休みの宿題は、最終日まで終わらないの?
その正体は、
パーキンソンの法則
ぱーきんそんの ほうそく/Parkinson's law
仕事は、終わらせるのに使える時間を、ぜんぶ埋めるまでふくらむ。
夏休みは40日あるのに、宿題が片づくのは最後の3日。会議は15分で決まったのに、予定どおり1時間かかる。1955年、イギリスの歴史家が雑誌に書いた皮肉の随筆が、この「時間があるだけ、かかってしまう」をひと言で言い当てました。ただしこれは、実験で確かめた法則ではありません。何が書かれていて、何が分かっていないのかを、分けて見ていきます。
- 言い出した人
- C・ノースコート・パーキンソン(イギリスの歴史家)。1955年11月19日、イギリスの雑誌「エコノミスト」に載った随筆
- 何の文章か
- 実験の報告ではなく、役所の人の増え方を皮肉った随筆。「新しい科学の法則」を名乗り、数式まで付けているのも冗談のうち
- 名前の由来
- 本人が随筆の中で「パーキンソンの法則と呼ぶことにする」と名付けた。そこに編集部が「なぜ? いけない?」と注を付けている
- よく出る場所
- 夏休みの宿題・1時間の会議・締め切りまで続く手直し
- 揺れている所
- 2020年の実験では、同じパズルに制限5分と15分を付けても、解くのにかかった時間はほとんど変わらなかった。ふくらんだのは、横で見ている人の「何分かかるか」の予想のほうだった
01絵はがき1枚に、まる1日
随筆はこう始まります。「仕事は、終わらせるために使える時間をすべて満たすまでふくらむ。これはありふれた観察である」。例に出てくるのは、時間のたっぷりある年配の女性です。姪に絵はがきを1枚送るだけなのに、はがきを見つけるのに1時間、眼鏡を探すのに1時間、住所を調べるのに30分、文面に1時間15分。最後に、隣の通りのポストまで傘を持っていくかで20分迷う。忙しい人なら3分で済むことが、まる1日の仕事になる、と。
1時間のたっぷりある女性が、姪に絵はがきを1枚送る。はがき、眼鏡、住所録、傘のあいだを行ったり来たり
2忙しい人なら全部で3分。でもこの人は、はがき探し1時間・眼鏡1時間・住所30分・文面1時間15分・傘で20分。怠けていたわけではなく、ずっと忙しかった
3本題は役所の話。忙しいと感じた役人Aは、同じ地位の同僚ではなく、部下を2人ほしがる。部下もやがて2人ずつ部下を持ち、7人になる。7人で、Aが1人で書いたのと同じ返事を書く
4証拠として挙げたのはイギリスの海軍省。1914年から1928年に、船は3分の2減り、兵は約3分の1減ったのに、海軍省の役人は2,000人から3,569人に増えた
絵はがきの話は、実はまくらです。随筆の本題は、役所の人数が、仕事の量と関係なく増えていくことでした。役人は2つの力で増える、と書きます。ひとつは「役人は、競争相手ではなく部下を増やしたがる」。もうひとつは「役人は、お互いに仕事を作り合う」。7人になった役所では、1通の書類が全員の机を回り、書き直され、最後にAが、自分1人で書いたのと同じ返事に戻す。随筆は「誰も怠けていなかった。皆が最善を尽くした」と付け加えます。
海軍省の数字は本物の統計から取ったものですが、その先は冗談です。役人の増え方は年5.17%から6.56%のあいだに必ず収まる、と数式まで付け、最後は「植物学者の仕事は雑草を抜くことではない。どれだけ速く伸びるかを示せば足りる」と結びます。つまりこれは、実験で確かめた法則ではなく、よくできた皮肉です。それでも書き出しの一文が、多くの人に「あるある」と刺さって、いまも名前が残っています。
02なぜ、時間があるだけかかるのか
随筆は役所の話なので、ひとりの作業がふくらむ理由は、はっきりとは書いていません。ただ、随筆の中の言葉と、後の研究から、3つの形が見えてきます。
「どこで終わりか」が、時計で決まる
随筆は「仕事は、とくに書類の仕事は、時間に合わせて伸び縮みする」と書いています。絵はがきの文面には、ここまで書けば終わり、という線がありません。終わりの形が決まっていない作業は、もう少し良くできそうな所がいつまでも見つかる。すると、時間の終わりが仕事の終わりになります。
人がいると、人のための仕事が増える
7人の役所では、書類が回るたびに、確認・書き直し・相談が生まれました。どれもさぼりではありません。人がいること自体が、仕事を作っていたのです。ひとりの作業でも、見直す、資料を足す、人に確かめる、と手順を足していくと、同じことが小さく起きます。
時間が長いと、仕事が大きく見える
2020年の研究は、別のところを見つけました。同じ課題でも、制限時間が長いと聞いた人ほど、その課題を大がかりなものと受け取り、かかる時間を長く見積もった。研究者はこれを、パーキンソンの法則の「心の版」と呼んでいます。手を動かす前から、長い締め切りが、頭の中の仕事を大きくしているのです。
では、時間があると本当に作業は遅くなるのか。ここは揺れています。その2020年の実験では、116人が同じジグソーパズルを解きました。制限5分の組は平均2.24分、15分の組は2.75分、制限なしは2.23分。はっきりした差は出ませんでした。報酬は一律で、終わったら帰ってよい、という形です。一方、見ていた人たちの予想は、5分の組に3.49分、15分の組に6.89分。研究者は、この法則は「実験の裏付けが少ないのに、大きな影響を持ってきた」と書き、制限を長くすると実際に時間をかけた、という実験もいくつかあるが、どんな時に起きるかはよく分かっていない、としています。
03身のまわりのパーキンソンの法則
終わりの形がはっきりしない作業ほど、時間いっぱいまでふくらみやすくなります。
場面ごとに見ると、こんなところに出てきます。
学校では
夏休みの宿題、提出が2週間先のレポート、テスト前の勉強。締め切りが遠いと、「まだ大丈夫」の期間が長くなります。大きな締め切りを、小さな締め切りに割ると、最後に集まる量が減ります。「ドリルは7月中」「作文は8月の最初の週」のように、途中にも終わりを置くと、40日が40日ぶんにふくらみにくくなります。
仕事では
1時間で入った会議、1週間もらった資料づくり。時間をたっぷりもらうと、それに見合う大きな仕事のように感じます。頼まれたら、まず「何ができたら終わりか」を確かめる。会議なら、決めることを最初に書き出しておく。決まったら、時間が余っていても終わってかまいません。
04振り回されないためのコツ
始める前に、「終わりの形」を書く
「表が1枚、説明が3行」「決めることは2つ」のように、何ができたら終わりかを先に書いておく。終わりの形が決まっていれば、そこに着いた時点で手を止められます。時計の終わりが、仕事の終わりにならずに済みます。
締め切りの長さから、仕事の大きさを読まない
2020年の実験で、見ている人は、制限が長いほどかかる時間を長く見積もり、実際の時間から大きく外れました。長い締め切りをもらっても、それは仕事が大きいという意味とは限りません。かかる時間は、締め切りではなく、中身を見て見積もる。人に頼むときも同じです。
途中に、小さな区切りを置く
遠い締め切りが1つだけだと、終わりの近くに作業が集まりがちです。途中に「ここまで」を置くと、手をつけるきっかけが増えます。ただし、短ければ良いとは限りません。考える時間そのものが価値になる作業(企画、文章、設計)は、短く区切りすぎると浅くなります。
パーキンソン自身は、役所が大きくなるのが良いか悪いかには踏みこまない、と随筆に書いています。時間をたっぷり使うことも、それ自体は悪いことではありません。知っておくのは1つだけ。時間の枠は、仕事の大きさを教えてくれるものではない。枠ではなく、終わりの形のほうから決めると、ふくらむ分と、本当に必要な分が分かれて見えます。
05もっと知りたくなったら
なかまの効果
次に気になりそうなこと
本当に「法則」なの?
もとは、役所の人数の話だったの?
時間を短くすれば、何でも早く終わる?
お金や部屋の広さにも当てはまる?
同じ棚の本
こころの棚で、この本の前と次に並んでいる2冊。