なんで高い薬のほうが、よく効く気がするの?

その正体は、

プラセボ効果

ぷらせぼ こうか/Placebo effect

「効くはず」と思って飲むと、中身が同じでも、感じ方が変わる。変わるのは主に、痛みのような「自分で感じるもの」。

同じ成分なのに、高いほうが効く気がする。いつものブランドの頭痛薬のほうが、安いのより楽になる気がする。2008年、同じ偽の錠剤を「新しい鎮痛剤」として82人に渡し、値段の説明だけを変えて痛みの変化を聞いた研究があります。1錠2.50ドルと言われた組では85%、10セントと言われた組では61%が「痛みが減った」と答えました。ただし、こうして変わるのは痛みや吐き気のように本人が感じるものが中心で、検査の数値のような体の側の変化にはほとんど見つかっていません。

確かめた人
レベッカ・ウェイバーとダン・アリエリーたち(2008年、アメリカ。医学誌 JAMA への短い報告)
実験の中身
同じ偽の錠剤を「新しい鎮痛剤」として82人に渡す。半分の説明書には1錠2.50ドル、半分には10セントに値下げ、と書いてある。手首に軽い電気の刺激を与えて、飲む前と後の痛みを比べる
言葉の意味
英語の placebo は、イギリスの辞書によると1811年から「治すためというより、喜ばせるために出す薬」の意味で使われてきた言葉(1955年の論文が、別の研究者の文を通して引いている)
よく出る場所
高いサプリの「効いた」・いつものブランドの頭痛薬・「使った人の9割が実感」の広告
揺れている所
「薬の効果の3分の1は偽薬の力」と書いた1955年の論文の数字は、元の試験を読み直した1997年の論文が「自然に治った分などが混ざっていて、偽薬の効果と言える証拠は無い」と指摘した。偽薬と「何もしない」を比べた試験を集めた2001年・2010年の研究では、痛みや吐き気のような本人が答えるものに小さい効果、検査の数値のような客観的なものにはほとんど見つかっていない

01同じ錠剤なのに、値段で「効き」が変わった

ウェイバーとアリエリーたちは、82人に同じ錠剤を渡しました。中身は何も入っていない偽薬です。でも説明書には、新しく承認された鎮痛剤だと書いてある。説明書は2通りあって、半分の人のものには1錠2.50ドル、もう半分のものには10セントに値下げと書かれていました。それ以外は同じです。飲む前に、手首に軽い電気の刺激を与えて、痛みの強さを答えてもらう。錠剤を飲んで、もう一度同じ刺激。痛みがどう変わったかを比べます。

ウェイバーとアリエリーたちの実験
  1. 182人に、同じ偽の錠剤を「新しく承認された鎮痛剤」として渡す。説明書も一緒に

  2. 2説明書は2通り。錠剤の絵も説明も同じで、半分には「1錠2.50ドル」、もう半分には「10セントに値下げ」とだけ違う

  3. 3手首に軽い電気の刺激を与えて、痛みを答える。錠剤を飲んで、もう一度同じ刺激。痛みがどう変わったかを答える

  4. 4「痛みが減った」と答えた人は、2.50ドルの組で85%、10セントの組で61%。飲んだものは同じ

「痛みが減った」と答えた人は、2.50ドルの組で85%、10セントの組で61%。飲んだものは同じですから、違いを作ったのは値段の説明だけです。小さい実験で、本当の病気の痛みでもありません。それでも、値段という情報が、痛みの感じ方まで動かしたことは分かります。

似たことは、本物の薬の箱でも確かめられています。1981年のイギリスの研究は、頭痛に鎮痛剤を使っている835人の女性を家を回って集め、2週間ぶんの錠剤を配りました。4通りあります。無地の箱の偽薬、よく知られたブランドの箱に入った偽薬、無地の箱のアスピリン、ブランドの箱のアスピリン。頭痛のたびに2錠飲んで、30分後と1時間後に、どれくらい楽になったかを「変わらない」から「すっかり楽」までの段階で答えてもらう。1時間後の点の平均は、無地の偽薬で1.78、ブランドの偽薬で2.18、無地のアスピリンで2.48、ブランドのアスピリンで2.70(大きいほど楽)。中身がアスピリンかどうかの差より小さいが、箱の差もある。ただし、どれも本人が答えた楽になり方で、痛みを外から測ったものではありません。

02なぜ、中身が同じなのに変わるのか

「気のせい」で片づけるには、体の側で起きていることが多すぎます。仕組みは3つに分けられます。3つ目は、仕組みというより「混ざりもの」です。

  1. 「効くはず」という期待が、体の痛み止めの仕組みを動かす

    1978年の研究は、親知らずを抜いたあとの人に偽薬を与え、痛みが減った人と減らなかった人に分けました。そのあとナロキソンという薬を与えると、偽薬で痛みが減っていた人だけ、痛みが戻った。ナロキソンは、体の中で作られる痛み止めの物質(エンドルフィン)の働きを止める薬です。偽薬が効いていた人の体では、本当に自分の痛み止めが出ていた、と読める結果でした。期待は頭の中だけで終わらず、体の仕組みを動かしています。

  2. 「飲む」という手順そのものが、効く

    2010年のアメリカの研究は、過敏性腸症候群の80人を2つに分け、片方には「これは砂糖の錠剤のような、中身の無い偽薬です」とはっきり伝えた上で、3週間飲んでもらいました。もう片方は何も飲みません。3週間後、「十分に楽になった」と答えた人は、偽薬の組で59%、何もしない組で35%。何もしない組も、医療者と同じだけ話をしています。違いは、偽薬を飲むかどうか。研究者は参加者に、犬がベルの音でよだれを出すように、体は「飲む」という手順に自動で反応することがある、と説明していました。ただし80人・3週間の小さい試しの研究で、本人の答えに頼る分の偏りは除けない、と論文自身が書いています。

  3. 「よくなった」の中に、偽薬と関係ない分が混ざっている

    偽薬を飲んで「よくなった」人の全員が、偽薬で良くなったわけではありません。風邪は放っておいても治る。症状は波があって、いちばんつらいときに薬を試すので、次に測れば軽くなっている(平均への回帰)。「よくなりましたか」と聞かれれば、礼儀で「はい」と答える。こういう分は、偽薬を飲まなくても起きる。1955年に「薬の効果の約3分の1は偽薬の力」と書いて有名になった論文がありますが、1997年にその元の試験を読み直した研究は、どの試験にも偽薬の効果と言える証拠は無く、ほとんどがこの混ざりもので説明できる、と指摘しました。

では、混ざりものを取り除いたら何が残るのか。それを調べるには、「偽薬を飲む組」と「何も飲まない組」を比べる必要があります。2001年にデンマークの研究者2人が、そういう比べ方をした試験を114本集めました。結果は、思ったより小さいものでした。治った/治らないのように2つに分かれる結果では、主観的なものでも客観的なものでも差が無い。痛みの強さのように連続の数で答える結果では小さい差があるが、本人が答えるものに限られ、検査の数値のような客観的なものには見つからない。痛みで言うと、100mmの物差しで6.5mmの減りでした。2010年に202本に広げても、向きは同じでした。痛みと吐き気には小さい効果があるが、医師などが外から測るものではさらに小さい。そして、本人の答えに出た効果は、答え方の偏りと区別しにくい、と書かれています。

まとめると、こうなります。期待は本当に体を動かす。だから高い薬は、高いというだけで少し効く。でも効くのは主に、痛みや吐き気のように、感じ方が症状そのものであるものです。検査の数値を動かすほどの力は、確かめられていない。「思い込みで病気が治る」とは、この研究のどれも言っていません。

03身のまわりのプラセボ効果

実験の外では、「2.50ドルの説明書」の役を、値札とブランドと広告がやっています。

高い薬、いつものブランド同じ成分の薬が、ブランドの箱と無地の箱で並んでいる。手が伸びるのは、たいてい高いほうです。そして実際に、そのほうが効いた気がする。1981年の頭痛の研究では、ブランドの箱の効果は、そのブランドをふだん使っている人のほうにはっきり出ました。信じている分だけ、感じ方が動くのかもしれません。効いた実感は本物でも、それは「高い中身が効いた」証拠にはなりません。
「使った人の9割が実感」この数字が本当でも、分からないことが1つあります。同じ人たちが、何も使わなかったら何割が「実感」したか。放っておいても良くなる分、いちばんつらいときに使い始める分、聞かれれば「はい」と答える分が、全部この9割に入っています。1955年の「3分の1は偽薬の力」も、そうやって数えた数字でした。比べていない数字は、効果ではなく期待の大きさを測っています。
寝る前の、決まった手順寝る前に同じお茶を飲んで、同じ順番で片づける。それで眠くなる気がする。効いているのはお茶の中身か、決まった手順に慣れたことか、それとも、お茶を飲む日はもともと疲れている日なのか。偽薬だと伝えられた上で飲んだ人たちが楽になった研究もあり、手順にも何かあるのかもしれません。それでも、どれが効いたのかは、眠くなった実感だけでは分けられない。分からないまま、気分よく続けるのは自由です。

場面ごとに見ると、こんなところに出てきます。

  • お金・買い物では

    高いサプリ、ブランドの水、「医師監修」の枕。効いた実感は本物のことが多く、だからこそ厄介です。買う前に1回だけ聞く。「偽薬や、何も使わない人と比べた試験はあるか」。無いなら、その実感は期待の分も含んだ数字です。自分のお金で試す分には自由ですが、「効いたから本物」とは言えない、と知っていれば、値段の上がり方に付き合わなくて済みます。処方された薬を「効かない気がする」でやめたり、自分で変えたりはしないこと。薬や治療のことは、医師や薬剤師に相談を。

  • SNS・ネットでは

    「私はこれで治りました」の投稿、使う前と後の写真、「9割が実感」の広告。どれも、何もしなかった場合と比べていません。治る病気は放っておいても治り、症状の波はいちばん高いところで薬を試させます。投稿した人が嘘をついているわけではなく、本人にも区別がつかないだけ。見かけたら、「同じ人が何もしなかったら?」を1回だけ思い浮かべる。それで、「みんなに効く」という読みだけは外れます。

04振り回されないためのコツ

  1. 「何と比べて?」を聞く

    効いた、という話には、必ず「何と比べて」が抜けています。偽薬と比べたのか、何もしない人と比べたのか、自分の前の状態と比べただけなのか。前の状態と比べただけなら、自然に治った分と期待の分が混ざっている。新しい薬の試験で必ず偽薬の組を作るのは、この混ざりものを引き算するためです。

  2. 気分を整えるのは自由に。ただし治療の代わりにはしない

    決まった手順、お気に入りのカップ、験担ぎ。気分を整えるために使うのは自由です。線を引くのは1か所だけ。偽薬で動くのは主に感じ方で、検査の数値を動かす力は確かめられていない。痛みが楽になっても、病気そのものが消えたわけではないことがある。処方された薬を自分の判断でやめたり変えたりせず、薬や治療のことは医師や薬剤師に相談を。

  3. 「いちばんつらいとき」に試したものは、何でも効いて見える

    人が新しい薬やサプリを試すのは、たいてい症状がいちばん重いときです。波があるものは、そこから次に測れば軽くなっている。だからそのとき試したものは、何であれ「効いた」ように見える(平均への回帰)。「あれが効いた」と思ったら、試し始めたのがいつだったかを思い出す。いちばんつらい日だったなら、効いたのは時間かもしれません。

とはいえ、期待が体に効くこと自体は、うれしい話です。同じ薬でも、信じて飲んだほうが楽になる。医師が「これは効きますよ」と言ってくれることにも、ちゃんと意味がある。知っておくことは1つだけ。効いた実感は本物でも、「何が効いたか」は実感では分からない。それを分かった上でなら、高い薬も、いつものブランドも、寝る前のお茶も、ちょうどいい大きさで付き合えます。

05もっと知りたくなったら

なかまの効果

次に気になりそうなこと

「薬の効果の3分の1はプラセボ」って、本当?
この数字の出どころは、1955年にアメリカの麻酔科医ヘンリー・ビーチャーが書いた「強力なプラセボ」という論文です。15の研究・1,082人を集めて、偽薬の平均の効き目は35.2%と書きました。いまでもいちばん引用される数字です。ところが1997年に、その15の試験を1つずつ読み直した研究が出ました。結論は「どの試験にも、偽薬の効果の証拠は無い」。改善に見えたものは、自然に治った、症状に波があった、平均への回帰、ほかの治療を受けていた、礼儀で「よくなった」と答えた、などで説明がつく、と。偽薬を飲んだ組の「前後の差」を効果と呼ぶと、こういう分が全部混ざります。2001年に、偽薬と「何もしない」を比べた試験114本を集めた研究は、治った/治らないのような結果には差が無く、痛みのような本人の答えに小さい差(100mmで6.5mm)がある、という結果でした。「3分の1」をそのまま信じるのは、言い過ぎです。
偽薬だと知っていても、効くの?
少なくとも1つの研究では、効きました。2010年、過敏性腸症候群の80人を、偽薬を飲む組(37人)と何も飲まない組(43人)に分けた研究です。偽薬の組には、「砂糖の錠剤のような中身の無いものです」と伝えた上で、偽薬の効果は強いこと、体はパブロフの犬のように自動で反応すること、前向きに信じなくてもよいこと、きちんと飲むことが大事なこと、の4つを説明しました。3週間後、全体の改善(1〜7の目盛り)は偽薬の組で5.0、何もしない組で3.9。「十分に楽になった」は59%対35%。手順そのものに、体が反応しているように見えます。ただし論文は限界もはっきり書いています。小さくて短い。偽薬だと知っているので、相手を喜ばせたくて良く答える偏りは除けない。何も飲まない組が、がっかりした分も差を広げたかもしれない。「心と体の新しい方法」という広告で集まった人たちなので、誰にでも当てはまるとは言えない。
期待で、体の中では何が起きている?
痛みについては、手がかりがあります。1978年、親知らずを抜いたあとの人に、3時間後と4時間後に偽薬かナロキソンを二重盲検で与えた研究です。ナロキソンは、体が自分で作る痛み止めの物質(エンドルフィン)の働きを止める薬。まず偽薬を受けた人は、痛みが減った(または変わらなかった)人と、増えた人に分かれました。次にナロキソンを与えると、偽薬で痛みが減っていた人だけ、痛みが増えた。偽薬が効かなかった人には、ナロキソンを足しても変わらない。つまり、偽薬で楽になった人の体では、自分の痛み止めが出ていて、それをナロキソンが止めた、と読める結果です。論文は「エンドルフィンの放出が偽薬の鎮痛を仲立ちする、という仮説と合う」と書いています。期待が効くのは、気のせいではなく、体の側に受け口があるからです。
値段やブランドのほかに、効き目を変えるものは?
色もその1つです。1996年に、薬の色についての研究12本を集めた論文があります。赤・黄・橙は「元気が出る」、青・緑は「落ち着く」と受け取られやすい。オランダで売られている薬を調べると、眠りや不安のための薬は、うつの薬より緑・青・紫のものが多かったそうです。ただし、色で本当の効き目が変わるかを調べた試験の結果はそろっていない、とも書かれています。箱については、1981年の頭痛の研究が、ブランドの箱の偽薬は、無地の箱の偽薬より楽になったと答えられた(1時間後の平均で2.18対1.78)、と示しました。箱の差は飲んで30分後より1時間後のほうにはっきり出ていました。ブランドが中身まで良く見せる仕組みは、ハロー効果へ →

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