なんで「生存率90%」と「死亡率10%」で、選び方が変わるの?
その正体は、
フレーミング効果
ふれーみんぐ こうか/Framing effect
同じ中身でも、「助かる」と聞けば確実なほうを、「死ぬ」と聞けば賭けを選ぶ。動いたのは数字ではなく、言い方。
「生存率90%」の手術と「死亡率10%」の手術は、同じ手術です。それでも、聞こえ方がちがう。1981年、600人が死ぬと見込まれる病気への対策を「200人が助かる」と書くか「400人が死ぬ」と書くかだけ変えた実験で、多数派がそっくり入れ替わりました。中身は同じまま、言い方の枠(フレーム)で選び方が変わる、という話です。
- 確かめた人
- エイモス・トベルスキーとダニエル・カーネマン(1981年、サイエンス誌の論文で。スタンフォード大学とブリティッシュコロンビア大学の学生に、教室で短い質問紙)
- 実験の中身
- 600人が死ぬと見込まれる病気への対策を2つ示して、選んでもらう。ある組には「200人が助かる」と書き、別の組には同じことを「400人が死ぬ」と書く。確実なほうを選んだ人は、72%と22%
- 名前の由来
- 論文の言い方。選択肢・結果・確率を本人がどう捉えているかを「決定フレーム」と呼び、同じ山でも立つ場所で高さがちがって見えることに例えた
- よく出る場所
- 「赤身75%」のひき肉・「1日あたり100円」・「現金割引」の札
- 揺れている所
- 効き目の大きさは、実験の作りで大きく変わる(1998年に約3万人分をまとめた分析では、全体では小さめ〜中くらい)。自分で試した経験があると、小さくなる
01「200人が助かる」と「400人が死ぬ」で、多数派が入れ替わった
トベルスキーとカーネマンは、学生にこんな場面を想像してもらいました。めずらしい病気が流行しそうで、何もしなければ600人が死ぬと見込まれている。対策は2つ。対策Aを取れば、200人が助かる。対策Bを取れば、3分の1の確率で600人全員が助かり、3分の2の確率で誰も助からない。どちらを選びますか。平均すれば、どちらも助かるのは200人です。
1スタンフォード大学とブリティッシュコロンビア大学の学生に、教室で短い質問紙を配る。「600人が死ぬと見込まれる病気。対策は2つ。どちらにする?」
2152人に見せた言い方A。「200人が助かる」か、「3分の1の確率で600人が助かり、3分の2の確率で誰も助からない」か。72%が確実なほうを選んだ
3別の155人に見せた言い方B。「400人が死ぬ」か、「3分の1の確率で誰も死なず、3分の2の確率で600人が死ぬ」か。78%が賭けのほうを選んだ
4600人のうち「200人が助かる」と「400人が死ぬ」は、同じ1本の棒を左から読むか右から読むかのちがい。賭けのほうも同じ。変えたのは言葉だけで、確実なほうを選ぶ人が72%から22%になった
言い方Aを見た152人のうち、72%が確実な「200人が助かる」を選びました。ここまでは、意外ではありません。おもしろいのは、別の155人に見せた言い方Bです。「400人が死ぬ」か、「3分の1の確率で誰も死なず、3分の2の確率で600人が死ぬ」か。中身はAとまったく同じです。600人のうち200人が助かることと、400人が死ぬことは、同じ出来事ですから。ところがこちらでは、78%が賭けのほうを選びました。確実なほうを選ぶ人は、72%から22%へ。論文は、大学の教員や医師の集団でも同じ逆転が出た、と書いています。
お金でも同じ形が出ます。同じ論文で、150人に2つの決め事を聞きました。「確実に240ドルもらう」か「25%の確率で1,000ドル」か。84%が確実なほうを選びました。「確実に750ドル失う」か「75%の確率で1,000ドル失う」か。こちらは87%が賭けを選びました。本当にお金が動く形で(額を50分の1にして、10人に1人が実際に賭けを行う)試しても、形は変わらなかったとあります。得の話では確実を取りたがり、損の話では賭けに出る。言い方で選ぶほうが変わるのは、この2つの向きが、同じ数字の中で入れ替わるからです。
02なぜ、言い方で選ぶほうが変わるのか
論文の説明は1つです。それに、あとの研究が「言い方」の種類を分けて足しました。3つに分けます。
得は確実に取りたい。損は、ゼロにできる賭けに乗りたい
トベルスキーとカーネマンの説明です。人は結果を、絶対の量ではなく「ゼロの点」からの増減で見る。そして同じ額なら、失う痛みのほうが、得る喜びより大きい。だから「200人が助かる」は得に見えて、確実に取っておきたくなる。「400人が死ぬ」は損に見えて、確実な損は耐えがたく、「誰も死なないかもしれない」賭けに乗る。論文は、問題1と2の逆転を「基準点がずれて、得が損に化けた」と書いています。数字は動いていません。動いたのはゼロの点です。
言葉が、連想を連れてくる
1988年、アイオワ大学で、同じフライパンで焼いた同じひき肉を学生に食べてもらいました。ちがうのは、食べる前に聞いた言葉だけ。「赤身75%」の組と「脂肪25%」の組です。「赤身」と言われた組のほうが、赤身らしく・質が高く・脂っこくないと答えました(7点満点の「赤身か脂肪か」の目盛りで、4.67対3.57)。ここには得も損も、確率もありません。「赤身」という言葉が良い連想を、「脂肪」という言葉が悪い連想を連れてきて、評価の出発点を決めています。1998年の整理では、こういう「特徴の言い方」は、最初の実験の「選ぶ場面の言い方」とは別の種類として分けられました。
比べる相手が、言い方で決まる
同じ論文に、こんな問題もあります。15ドルの電卓が、車で20分の別の店では10ドルだと聞く。行く人は68%。電卓が125ドルで、別の店では120ドル。行く人は29%。節約できるのはどちらも5ドルで、かかる手間も同じです。それでも、5ドルを「電卓の値段」と比べてしまう。15ドルの5ドルは大きく、125ドルの5ドルは小さい。月3,000円を「1日あたり100円」と言い換える売り方(1998年の研究で「ペニーズ・ア・デイ」と名付けられました)も同じで、日割りにすると、頭が比べる相手を「毎日の小さい出費」に取り替えてしまう、と説明されています。
ただし、効き目の大きさは一定ではありません。1998年に、136本の論文・約3万人分・230の効果量をまとめたメタ分析は、「選ぶ場面の言い方」の効き目を全体では小さめ〜中くらいと見積もり、実験の作り(基準点を動かすのか、片方を目立たせるだけなのか。選ばせるのか、点を付けさせるのか)で大きく変わる、と書いています。一方で2014年に36か所・6,344人で13の有名な効果を同時に追試したときは、600人の問題はきちんと再現されました(再現されなかったのは別の2つです)。トベルスキーとカーネマン自身も、効果は「大きく系統的だが、決して全員に起きるわけではない」と書いています。言い方で全員が動くのではなく、多数派が動く。それがこの効果の大きさです。
03身のまわりのフレーミング
実験の外では、「助かる」と「死ぬ」の役を、商品の札や画面の数字がやっています。
場面ごとに見ると、こんなところに出てきます。
お金・買い物では
「1日あたり100円」「赤身75%」「現金割引」「今なら30%オフ」。売る側は、たいてい良く見える側の言い方を選んでいます。「1日100円」が払える気がするのは、頭がコーヒー1杯と比べているからで、額が小さいからではありません。払う単位を、自分でそろえ直す。月額のものは年額に、日割りのものは月額に直してから、同じ単位のほかの出費と並べる。「割引」は「もう片方の値段」を見る。数字はそのままなので、直すのは言い方だけで済みます。
04振り回されないためのコツ
同じことを、逆から言い直す
「生存率90%」は「死亡率10%」。「成功率80%」は「5回に1回は失敗」。「30%オフ」は「定価の70%を払う」。言い直して印象が変わったら、そこが引っぱられていた場所です。数字は同じままなので、変わったのは自分の見え方のほうだと分かります。論文も、同じ問題を別の枠で見て選びたいものが変わったと気づけば、人はふつう決め直したくなる、と書いています。
「ゼロの点」を、どこに置いているか見る
得か損かは、どこを基準にするかで決まります。「手数料」は定価が基準、「割引」は高いほうの値段が基準。「200人が助かる」は誰も助からない状態が基準、「400人が死ぬ」は誰も死なない状態が基準。言い方は、基準を黙って置き換えています。自分の基準を先に決めておく。買い物なら「払う総額はいくらか」、仕事なら「最後に何人に届くか」。基準が自分のものなら、言い方で得と損が入れ替わりません。
比べる相手を、自分で選ぶ
「1日100円」はコーヒーと比べさせ、「15ドルの電卓が5ドル安い」は電卓の値段と比べさせます。どちらも、比べる相手を言い方が決めている。代わりに、同じ単位のものと並べる。「年36,000円」にして、同じ年に払うほかのものと比べる。5ドルの節約は、電卓の値段ではなく5ドルで考える。比べる相手を自分で置いた瞬間に、日割りの魔法は解けます。
とはいえ、言い方を選ばずに何かを伝えることはできません。「まだ半分残っている」も「もう半分使った」も本当で、どちらかを選ぶしかない。だからこの効果はなくせませんし、相手が使ってきたからといって、だまされたとも限りません。知っておくことは1つ。言い方が変わっても、中身は変わっていない。それを思い出せたら、商品の札も、画面の「1日あたり」も、ただの言い方に戻ります。そして、自分にかける言葉も選べます。
05もっと知りたくなったら
なかまの効果
次に気になりそうなこと
どうして「フレーミング(枠)」という名前?
お医者さんでも、言い方で選ぶほうが変わる?
なくした「10ドル札」と、なくした「券」はちがう?
本当に、何度やっても出る効果?
同じ棚の本
学びの棚で、この本の前と次に並んでいる2冊。