なんで「待てば2個」でも、いま1個を取っちゃうの?

もとになったのは、

マシュマロ実験

ましゅまろ じっけん/Marshmallow test

待てるかどうかは、意志の強さより、お菓子が見えているか、「あとで」が本当に来るかで変わる。

いま1個か、待てば2個か。幼稚園の子が目の前のお菓子をどれくらい我慢できるかを見たこの実験は、「待てた子は将来も伸びる」という続報で有名になりました。でも調べ直すと、待てるかどうかは、意志の強さだけでは決まっていませんでした。

確かめた人
ウォルター・ミシェルたち(1970年ごろ、スタンフォード大学の幼稚園で)
実験の中身
好きなお菓子を目の前に置き、大人が戻るまで(最長15分)待てるかを見る。待てなければベルを鳴らして、好きじゃないほう
よく出る場所
ポイントの期限・給料日前の買い物・「明日から本気出す」
揺れている所
「待てた子は十数年後の成績も良かった」の続報。2018年の追試では差は半分ほどで、家庭の環境を考えに入れるとさらに縮んだ

01いま1個か、待てば2個か

幼稚園の子を部屋に一人残して、目の前のお菓子をどれくらい待てるかを見る。マシュマロ実験は、そういう実験です。よく知られているのは「いま食べてもいい。でも、私が戻るまで待てたら2個あげる」という形ですが、1970年ごろにスタンフォード大学の幼稚園で行われた最初の実験は、少しちがいました。相手は4歳半くらいの子どもたちです。

スタンフォードの実験
  1. 1マシュマロとプレッツェルを見せて、「好きなほうを選んで。私が戻るまで待てたら、それをあげる。待てなくなったらベルを鳴らしてね。すぐ戻るけど、そのときはもう片方」

  2. 2お菓子が目の前にあるだけだと、平均で30秒ももたなかった。15分待ち切れた子は、10人のうち0人

  3. 3待てた子は、目を手でおおう・鏡を見つめる・ひとりごとを言うなど、見ないで済む工夫をしていた。おもちゃで遊べた子は平均8分半、「楽しいことを考えて」と言われた子は12分

  4. 4もっと前の1970年の実験では、お菓子を見えない所にしまうと、見えているときよりずっと長く待てた。待てるかどうかは、お菓子が目に入るかで大きく変わった

この実験が見ていたのは、「我慢強い子かどうか」ではありませんでした。同じ年の子でも、お菓子が目の前にあるかないか、気をそらすものがあるかないかで、待てる時間は30秒から12分まで変わった。ミシェルたちの結論は、待つコツは我慢ではなく「お菓子に気持ちを向けないこと」だ、というものでした。

ところが、この実験を有名にしたのは別の話です。あとになって「幼稚園のとき待てた子は、十数年後の成績も良かった」という続報が出て、我慢する力が人生を決めるという話として広まりました。2018年、もっと多い918人で調べ直したところ、差はもとの報告の半分ほどで、家庭の環境などを考えに入れるとさらに縮みました。実験そのものが嘘だったのではなく、その上に積まれた物語のほうが盛られていた。くわしくは最後の「次に気になりそうなこと」に書きました。

02なぜ、いま1個に手が伸びるのか

「待てば2個」と分かっているのに取ってしまう理由は、実験の中にだいたい出そろっています。

  1. 目の前にあると、気持ちがそっちに行く

    お菓子が見えていると、待っているあいだずっと「食べたいのに食べられない」が続きます。見えなくするか、ほかのことに気持ちを向けられると、同じ年の子が何倍も長く待てた。待てないのは意志の問題である前に、置き場所の問題です。

  2. 「あとで」が本当に来るか、分からない

    2013年のロチェスター大学の実験では、マシュマロを出す前に、大人がわざと約束を破っておきました(「あとで新しい画材を持ってくる」と言って手ぶらで戻る)。すると、いま1個か待って2個かで、待てた時間は平均3分。約束を守った大人のあとでは12分でした。15分待ち切った子は14人中1人と9人。約束が守られない所では、いま食べるのが正しい判断なのです。

  3. 待てるかどうかは、性格の固定値ではない

    同じ年の子でも、お菓子が見えるか、気をそらせるか、大人を信じられるかで、30秒にも12分にもなりました。2018年の追試でも、待てた時間と十数年後の成績のつながりは、家庭の環境を考えに入れるとだいぶ小さくなっています。「待てる子」と「待てない子」がいるのではなく、「待てる状況」と「待てない状況」がある、と読むほうが近い。

だから「いま1個」を取ってしまったとき、自分を責めても次は変わりません。変えられるのは、お菓子の置き場所と、「あとで」が本当に来るかどうかのほうです。

03身のまわりのマシュマロ

お菓子を給料やポイントに替えると、同じ形があちこちに見つかります。

ポイントの期限「ためると得」と分かっていても、期限切れで失った経験が1回あると、次からは細かく使うようになります。待てなくなったのではなく、待って損をしたから学んだだけ。「あとで」が来なかった大人の実験と、同じことが起きています。
給料日前の買い物同じ人でも、残高が心もとない時期ほど、目の前の安いものに手が伸びます。性格が変わったのではなく、状況が変わっている。マシュマロ実験の読み直しが言っているのも、これと同じことです。
大人版マシュマロ「あとでまとめて返信する」「明日から本気を出す」。待てば2個になるはずの約束を、自分と結んでいます。それをこれまで何度破ったかで、次に自分を信じられるかが決まる。自分との約束も、守られてこそ効くのです。

場面ごとに見ると、こんなところにも出てきます。

  • お金・買い物では

    残高が減る時期のセールは、まさに目の前のマシュマロ。意志で耐えるより、その時期は売り場やアプリを開かないほうが確実です。ポイントは「ためる」より先に期限をメモしておく。待って損をする仕組みに気づいたら、待たない判断もあり。

  • 家族では

    「あとでね」が本当に来ない家では、子どもは目の前のものをいま取ります。それは弱さではなく、その子なりに正しい判断。大人も毎回は守れないので、守れる小さい約束だけを口にして、言ったら本当に渡す。守れない「あとで」は、最初から言わない。

04待てる状況を、自分で作るコツ

  1. 見えない所に置く

    スマホは別の部屋、お菓子は棚の奥。実験で待てた子がやっていたのは、我慢ではなく「見ない工夫」でした。目に入らなければ、待つのはそれほど難しくありません。

  2. 「あとで」を、本当に来させる

    「あとでごほうび」と自分や子どもに言ったら、小さくてもいいので本当に渡す。守れそうにない約束は、最初から口にしない。1回守られた「あとで」は、次に信じてもらえます。

  3. 待てなかった自分を、性格のせいにしない

    同じ年の子が30秒にも12分にもなった実験です。待てなかった日は、お菓子が見えていたか、「あとで」を信じる理由が無かったかのどちらか。責めるかわりに、置き場所と約束のほうを直します。

とはいえ、目の前の1個を食べるのが、いつも間違いとは限りません。「あとで2個」が本当に来ない場所では、いま食べるほうが正解です。待てないのではなく、待つ理由がまだ無いだけ。そう思えると、自分にも人にも、少しやさしくなれます。

05もっと知りたくなったら

なかまの効果

次に気になりそうなこと

待てた子は、本当に将来も伸びるの?
「待てた子は十数年後の成績も良かった」の元になった続報は、大学の構内の幼稚園に通った35〜89人という小さな集まりの数字でした。2018年の追試は、アメリカの10か所で生まれたときから追いかけている調査を使い、4歳半でテストを受けて15歳の成績まで分かる918人(最長7分、お菓子は本人の好きなもの)。つながりはもとの報告の半分ほどで、しかも大半は「20秒待てたかどうか」の差から来ていました。家庭の環境やそのころの発達を考えに入れると、さらに3分の2ほど小さくなった。長く待てるほどどこまでも伸びる、という形ではありませんでした。
約束を破られた子は、もう待てない?
2013年の実験では、大人が先に約束を2回破ると、15分待ち切った子は14人中1人でした。でもそれは待つ力が無いのではなく、「この人の『あとで』は来ない」と学んだだけ。約束を守った大人のあとでは、同じ年の子の14人中9人が15分待ち切っています。信じられる理由があれば、待てます。
待てた子は、何をしていた?
目を手でおおう、鏡を見つめる、ひとりごとを言う。1972年の実験では、おもちゃで遊んでよいと言われた子は平均8分半、「楽しいことを考えて」と言われた子は12分待てました。逆に、お菓子のことを考えるように言われた子は、ずっと短かった。待つのがうまい子は、我慢がうまいのではなく、よそ見がうまい子でした。
お菓子は本当にマシュマロだった?
1972年の実験では、マシュマロとプレッツェルを見せて、好きなほうを選んでもらいました。2018年の追試では、マシュマロのほかチョコや動物クッキーなど、その子の好きなものを使っています。「マシュマロ実験」は通り名で、マシュマロそのものが大事だったわけではありません。

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